こんにちは。あしたの在宅クリニックです。当院は品川区を中心に在宅診療(訪問診療)を行っており、地域の多職種の皆さまと連携しながら、住み慣れた地域での暮らしを支える医療を目指しています。
当院では毎月、地域で開催される「地区ケア会議」に参加しています。今回は、品川区・上大崎エリアで開かれた「上大崎地区ケア会議」に参加してまいりましたので、その内容の一部をご紹介いたします。
地区ケア会議とは
地区ケア会議は、地域で暮らす方々を支えるために、医療・介護・福祉などさまざまな立場の専門職が集まって行う会議です。日々の支援のなかで見えてきた地域の課題を発見し、その解決策を多職種で共有・検討することが、この会議の大切な役割のひとつとなっています。
多くの場合、前半に「事例検討」、後半に「講演(勉強会)」がセットになっており、現場で出会う困りごとを話し合いながら、地域全体で支援の質を高め、地域包括ケアの体制づくりにつなげていく場になっています。
今回の上大崎地区ケア会議でも、前半に困難事例の検討、後半に品川区の機能訓練事業と高次脳機能障害に関する講演が行われました。上大崎・東五反田エリアをはじめとした地域の支援者が一堂に会し、活発な意見交換が行われました。
事例検討:「片づけられない、捨てられない」生活への支援
今回のテーマは、「片づけられない・捨てられない、でも買ってしまう、物に埋もれた生活。在宅生活の継続に向けて、公的なサービスにつながるまでの支援」というものでした。いわゆる「ゴミ屋敷」やセルフネグレクト(自己放任)の状態にある方へ、どのように支援を届けていくかという、在宅医療・在宅介護の現場でしばしば直面する難しいテーマです。
なお、個人が特定される情報は避け、検討のなかで共有された支援のアイデアを中心にまとめております。
どのような状況か
天井近くまで物で埋まっていたり、動線が確保できずお風呂やキッチンなどの水まわりが使えなかったり、ネズミやゴキブリが発生していたりといった状況は、今回の事例に限らず、現場では決して珍しいものではありません。
こうしたお住まいの清掃には、専門業者による高額な費用(数十万円から、場合によっては百万円ほど)がかかることもあります。
今回の事例では、生活に必要なライフラインが止まったことをきっかけに、周囲の気づきから支え愛・ほっとステーションへ情報が寄せられ、ケアマネジャーなどの支援につながりました。
事例検討で共有された支援の工夫
こうしたケースでは、認知症や精神疾患を伴うことが多く、ご本人に片付ける気力がわかないことも少なくありません。そうしたなかで、参考になる支援の工夫として、以下のような取り組みが共有されました。
- まずは介護申請を促す。たとえば福祉用具でベッドを導入し、「そこだけは快適に過ごせる空間」をつくることで、「周りも整えてみよう」という気持ちが芽生えた方や、「ベッドを置くために、もう少し片付けよう」という動機づけにつながった方がいた
- 電気・ガス・水道などが止まってしまう方は、請求書の管理が難しいことがあるため、ケアマネジャーが口座引き落としの手続きを支援する
- 生活保護の申請の際に、介護申請についても、「一緒に手続きしておきましょう」とお伝えすることで、手続きを円滑に進める
- 精神科の受診を促したり、短期入院などのレスパイトの期間を活用し、ご本人の同意を得たうえで清掃に入る
- 物を捨てることが苦手な方には、まず動線の確保を優先し、一部の部屋に物を集めて「通り道」をつくるという方法をとる
- 自費のヘルパーサービスを活用し、複数人で一気に清掃を進める
- 医療的な処置のために訪問していたケースで、室内の状況により処置が難しく、やむを得ず看護師が最低限の環境整備を行ったうえで、「お掃除は本来看護師の役割ではありません」とお伝えしたところ、ご本人にご納得いただき、ヘルパーや清掃業者にお願いしようという前向きなきっかけにつながった
どれもはじめからすべてを片付けようとするのではなく、ご本人のこだわりやお気持ちに寄り添いながら、小さなきっかけを少しずつ積み重ね、公的なサービスへとつなげていく取り組みがなされていました。
在宅生活を続けていただくための支援のあり方として、当院にとっても多くの学びがありました。
講演:品川区の機能訓練事業と高次脳機能障害について
後半の講演では、品川区の機能訓練事業と高次脳機能障害についてご紹介がありました。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、事故や病気(脳卒中など)によって脳がダメージを受けたことで、記憶・注意・遂行機能(物事を段取りして進める力)・感情のコントロールなどに障害が生じる状態をいいます。
外見からはわかりにくく、ご本人も周囲も気づきにくいことから、「見えにくい障害」とも呼ばれています。
ご紹介された事例のなかには、なかなかご自身にできることを見つけられずにいた高次脳機能障害の方がいらっしゃいました。
はじめは単純な作業が中心で休みがちだった方が、ご本人に合った作業を少しずつ広げていくなかで、安定して通えるようになり、生活面にも良い変化が見られたとのことです。
高次脳機能障害をめぐる法律・制度について
講演では、2026年4月1日に施行された「高次脳機能障害者支援法」についても触れられました。法律が施行されたからといって、ただちに支援の内容が大きく変わるわけではありませんが、今後に向けて次のような効果が期待されています。
- 高次脳機能障害の普及・啓発。広く知られることで、地域の方々や職場における理解の促進が期待される
- 支援機関・支援体制の整備。地域格差の縮小、ご家族への支援、専門的な医療機関の確保などにつながることが期待される
品川区立心身障害者福祉会館の機能訓練事業
品川区の取り組みとして、品川区立心身障害者福祉会館の機能訓練事業のご案内もありました。こちらには看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、リハビリテーション科の医師などが在籍しており、高次脳機能障害の方に対しても、その方に合った「できる仕事」を一緒に探していく支援を行っているとのことです。対象は高次脳機能障害の方に限らず、日常生活動作(ADL)が自立している方で、社会参加を目指したい方や行動範囲を広げたい方などとされています。障害者雇用枠での再就職を目指す取り組みも行われているとのことでした。
品川区の就労体験事業「Kitara(きたら)」のご紹介
会議では、品川区の就労体験事業「Kitara(きたら)」のご紹介もありました。Kitaraは、2025年9月に旗の台でスタートした、障害・ひきこもり・難病などにより長時間働くことが難しい区内在住の方を対象とした就労支援の拠点です。
(所在地:品川区旗の台5-13-9、東急大井町線・池上線「旗の台駅」南口より徒歩約1分)
- 就労体験:1日数時間から、ご自身のペースに合わせて参加できる
- 超短時間雇用:週20時間未満の「超短時間」という働き方。利用には事前のご相談・ご予約が必要(「品川区超短時間雇用促進窓口みっけ」へ)
- 交流スペース:地域の方が気軽に立ち寄れるスペースも併設
- 商品の販売:区内の障害者就労施設でつくられた製品や、区内の名品・逸品なども並ぶ
障害や難病などにより、働きたいというお気持ちはあっても、いきなり長時間働くことは難しい——そうした方にとって、「まずは短時間から」という新しい選択肢になる取り組みだと感じました。詳しくは品川区や「Kitara(きたら)」のホームページをご覧ください。
おわりに
今回の上大崎地区ケア会議では、「ゴミ屋敷」やセルフネグレクトと呼ばれるような状況への支援、高次脳機能障害や就労支援など、在宅生活を支えるうえで大切なテーマについて、上大崎・東五反田エリアの多職種で学び合うことができました。
地域の課題を共有し、その解決に向けて知恵を出し合えることは、地区ケア会議の大きな意義であると改めて感じています。
あしたの在宅クリニックは、これからも品川区の地区ケア会議をはじめとした地域連携の場に積極的に参加し、医療・介護・福祉の皆さまと協力しながら、患者さんが住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう支えてまいります。
在宅医療・訪問診療に関するご相談は、どうぞお気軽にあしたの在宅クリニックまでお問い合わせください。
地域の相談窓口・関連リンク
上大崎在宅介護支援センター(地区ケア会議の事務局)
今回の上大崎地区ケア会議は、上大崎在宅介護支援センターが中心となって開催されています。在宅介護支援センターは、高齢者やそのご家族からの介護に関するご相談に応じ、介護保険の申請のお手伝いやケアプランの作成、関係機関との調整などを行う、地域の身近な相談窓口です。上大崎在宅介護支援センターは上大崎・東五反田エリアを担当しています。お近くの在宅介護支援センターは、品川区の在宅介護支援センター一覧からご確認いただけます。
支え愛・ほっとステーション
支え愛・ほっとステーションは、品川区社会福祉協議会が運営する地域の福祉の相談窓口です。介護保険サービスだけでは対応が難しい、日常のちょっとした困りごと(電球の交換、ゴミ出し、買い物のお手伝いなど)のご相談に応じ、地域での支え合いの仕組みづくりを進めています。今回の事例のように、地域の気づきから支援につながる大切な入り口にもなっています。詳しくは品川区社会福祉協議会「支え愛・ほっとステーション」のページをご覧ください。